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今治のヒト

今治で活躍している人にインタビュー

シトラス&アロマ 島香房 松田 康宏さん、英理子さん

 柑橘の産地である今治。柑橘農家や栽培をする人はたくさんいても、その香りを商品化しようという人が今までいただろうか。大三島の松田さんご夫妻を訪ねた。

理系夫婦と瀬戸内の出会い

 大三島の北部に位置する盛港のほど近くに「シトラス&アロマ 島香房」はある。関東から移住されてきた松田康宏さんと英理子さんが営む柑橘を使ったナチュラルコスメの製造工房だ。ファクトリーショップも併設されている。

 康宏さんは大学の理工学部を卒業して一度社会を経験し、興味をもった植物を大学院の農学部で学び直したという経歴の持ち主。英理子さんも大学院で薬学を研究してきたという理系夫婦だ。島暮らしの空気がそうさせるのか、2人の雰囲気はほんわかと柔らかい。

 いつかは田舎で農業をと2人が大三島へやってきたのは2012年のこと。移住先を検討するなかで、当時今治市が初めての地域おこし協力隊を募集することを知って応募した。採用面接で農業をしたいと話すと、それなら大三島がいいよと採用担当者の勧めであっさりと決まったのだとか。

 とはいうものの、学生時代に康宏さんは広島県の大崎下島を訪れたことがある。当時から強く印象に残っていたのは瀬戸内の柑橘のある風景だ。「どこの家の庭にもレモンの木があって、それと海の景色がいいなぁと思ったんです。」と康宏さん。下見に訪れた大三島の柑橘畑の風景を見て、ここだ!と感じたそうだ。

島の香りを商品化する

 愛媛県の柑橘は種類が豊富で味わいの違いが魅力だが、香りに着目したのが松田さん夫婦のユニークなところだ。5月になると島中にただよう柑橘の花の香りがヒントになった。「島の人が、車の窓を開けて走ったらいい香りがするよと教えてくれて。あぁこれが!と感動しました。」と英理子さん。

 こんなにいい香りなら、香りを使った商品がたくさんあるだろう。英理子さんの祖父母のいる沖縄では月桃やシークワーサーを原料にした化粧品などがおみやげ店に並ぶ。大三島にもあって当然と探してみたものの、意外にも見つからない。「なんでないんだろう、やればいいのに」と強く感じたという英理子さん。ならば自分たちがやろうと踏み出すきっかけになった。

香りを取り出す蒸留に挑戦

 まず挑戦したのが植物の香りを抽出する蒸留だ。インターネットで調べ、「アランビック」というポルトガル伝統の銅製蒸留器を取り寄せた。

 蒸留器の仕組みはシンプルだ。まず本体に蒸留する植物と水を入れて火にかける。すると芳香成分を含んだ蒸気が上がり、冷却層で冷やされ排出口から液体となって出てくる。それが精油(天然の芳香物質)を含んだ芳香蒸留水で、上部に浮く油分が精油だ。精油の抽出量は植物によって異なるが、採れる量はごくわずか。貴重なものだ。

 初めての蒸留はレモンだった。芳香成分の多い皮と水を蒸留器にかけると蒸留水と少量の精油が採れた。剪定したローズマリーや他の柑橘も蒸留した。植物そのもののフレッシュな香りが素晴らしい。試しにイベントで蒸留水と精油を販売すると、他の出店者から取り扱いの依頼があったり別のイベントから声がかかったりと広がりが見えた。香りの商品化への第一歩になった。

国産精油の広がりが追い風に

 精油などの植物から抽出した自然の香りを健康や美容に役立てる方法をアロマテラピーという。発祥はヨーロッパで精油は海外産が当たり前だったが、ここ数年で国産精油が全国各地に増えてきた。日本原産のヒノキやクロモジといった樹木系の香りや和種ハッカなどのハーブ、松田さんが行うように愛媛産の柑橘などがあり、土地に根付いた香りでアロマテラピーを楽しめることと、国産の安心感から急速に注目度が高まっている。

 島香房へもアロマテラピーの専門家やセラピストなどが、“ご当地精油”を求めて県外からも訪れるという。依頼があれば蒸留体験も可能だ。精油といえば専門店で購入するものだったのが、生産者と話をしながら収穫から蒸留まで、製造過程を五感で体験できるのだから、専門家はもちろん一般の観光客にも蒸留体験は大人気だ。こうした“コト消費”で島香房の商品は説得力を増し、ファンの獲得に繋げてきた。

生産者として、製造者として

 初めての蒸留から10年、いま松田さんの畑にはレモン、はっさく、伊予柑、ネーブル、ポンカン、ベルガモットなど10種類ほどの柑橘が実る。2017年には工房を整え、2018年に英理子さんが化粧品製造販売の資格を取得し本格的にコスメの製造に着手。化粧水やバーム、大三島の素材を使った石けんなどラインナップが格段に増えた。そして2021年にはファクトリーショップがオープンと、着実にステップアップしている。

 肌につけるものだからこそ原料となる柑橘は自家栽培で、当初から変わらず農薬・化学肥料・除草剤不使用にこだわっている。生産者として、製造者として、一つひとつ手作りで開発してきた大切な商品をベースに、今後はOEMにも力を入れたいと康宏さんが語ってくれた。これからもきっと柑橘が実る大三島の風景を香りととも届けてくれるだろう。